奈良県田原本町の医師宅に放火した長男の供述調書をめぐる秘密漏示事件で、草薙厚子さんの求めに応じて調書を見せたとして長男を精神鑑定した崎浜盛三医師(49)が奈良地検に逮捕された。「逮捕」に至ったことは、取材を受ける側の情報提供者や、内部告発を行う人たちの萎縮(いしゅく)効果を招きかねず、表現の自由を侵害する恐れが大きい。
刑法の秘密漏示罪は、医師や弁護士らが正当な理由がないのに、業務上知り得た秘密を漏らす行為が処罰対象で、地検は不当な漏えいに当たると判断した。草薙さん側は取材源の秘匿だとして入手先を明らかにしていないが、崎浜医師が情報提供したのは、事件が起きた背景を社会が共有し再発を防ぐことに、秘密を守ることを上回る利益があると考えたからだとみられる。
服部孝章・立教大教授(メディア法)は「刑事手続きに関する記録は基本的には社会全体が共有すべき情報であり、取材に応じる目的や方法が不当でない限り、秘密漏示には当たらない」と指摘し「逮捕は、秘密に接する公務員や裁判員になる国民に対する見せしめ効果しか生まない」と批判する。
今回、草薙さんの著作の表現内容については批判も少なくない。(1)結果として崎浜医師の逮捕を招いた(2)少年法の精神と照らして調書の内容をほぼそのままの形で掲載するのが妥当なのか(3)関係者のプライバシーを侵害していないか−−などの指摘がある。
本来、表現や報道の自由にかかわる領域は、民事手続きで解決するのが筋だ。今回も草薙さんや講談社側に対する名誉棄損・プライバシー侵害での損害賠償請求や、出版の差し止め請求などで対応すべきだった。いずれにしろ、草薙さんと講談社には、十分な検証と社会に対する説明責任がある。
